盲導犬と共に走ることを実現した人々の物語
Ruffwearでは長年、盲導犬と視覚障碍者がともにランニングに向き合う日々を支援してきました。「視力がない」ということを理由にランニングを諦めていた人々が、盲導犬とともに走ることへと再挑戦した感動の物語をお届けします。
「盲導犬と走る」という今までになかった挑戦の始まり
物語の主人公となるトム・パネックは、20代半ばで視力を失いました。彼はランニングが大好きな青年でした。彼のランニングに対する気持ちは、視力を失っても変わることはありませんでしたが、視力がないことで、1人で走ることへの恐怖心が大きくなりました。そこで彼は、視力を失ってからしばらくは人間のガイドとともにランニングを行うようになりました。
物語のもう1人の主人公、リチャード・ハンターは22歳で視力を失い始めました。彼もトムと同じようにランニングが大好きで、ガイドの助けを借りて走ることに挑戦し続けていました。リチャードは当時、ボストンマラソンやアイアンマン・トライアスロンなど名だたる大会に参加し、見事に完走を成し遂げていました。
2014年のボストンマラソン。トム(当時、視覚障碍者のための会社のCEOだった)とリチャードの2人は、「盲導犬と一緒にランニングできるプログラムを作ることはできないか」と話し合いを始めます。当時はまだ、「盲導犬と一緒に走る」という行為が安全ではないと考えられていました。そのため、リチャードが参加していたボストンマラソンやアイアンマン・トライアスロンなどの大会でも、盲導犬と一緒に走ることはルール上禁止されていたのです。つまり、彼らの「視覚障害者と盲導犬が一緒に走る」というのは前代未聞の新しい挑戦でした。
ランニングガイドプログラムで、「盲導犬と一緒に走る」を実現する
トムとリチャードの2人は、ニューヨークで「犬と視覚障碍者が一緒に走る」ためのトレーニングを考え始めました。こうして生まれたのが、ランニングガイドプログラムです。このプログラムは、トムがCEOを務めていた視覚障碍者のためのNPO団体、Guiding Eyes for the Blindを通じて開発されていくことになります。
彼らは初めてのトレーニング犬として、ジャーマン・シェパードのクリンガーを選出しました。この時トレーニングで使用していたのが、Ruffwearのフロントレンジハーネスに、人間用のハンドルを追加するなどの改良をほどこしたアイテム達でした。
そんな中、Ruffwearに「このプログラムのためのハーネスを作ることはできないか」という依頼が舞い込みます。
Ruffwearは当時すでに、働く犬のための様々なハーネスの開発、製造を行っていました。一方で盲導犬と視覚障碍者に対する商品開発に関しては、アイディアの段階で止まっていました。彼らの依頼を受けたRuffwearのデザインチームは、盲導犬用のハーネス作りを実現させることを決意します。この時チームは、「盲導犬用のハーネスを作るのであれば、すべての盲導犬ユーザーに適応し、またどんなアクティビティにでも対応できるものを開発しよう」と考えたのです。
こうしてあらゆる視覚障碍者と盲導犬に適応するように開発されたのが、UniFly™ハーネスです。この商品はRuffwearの他のギアと同じように、「犬が快適かつ、自由に動き回れるような商品開発」を意識し、ギア自体が軽く、そして通気性が良くなるように作られました。また、デザインチームは盲導犬と視覚障碍者がギアを通してコミュニケーションを取りやすいように、ハーネスとハンドルの間に特別な接続部品を追加しました。こうして、盲導犬と視覚障碍者に新たな可能性を与えるギアが完成したのです。
その後、ランニングガイドプログラムはRuffwearが開発したUniFly™ハーネスとともに発展を続けていきます。そして、2015年、リチャードと盲導犬クリンガーがこのプログラムの初めての卒業生として全てのトレーニングを終了しました。このプログラムからの卒業は、「視覚障碍者が人間のガイドを必要とせず、自分の意思で走ることを実現できる」ということを意味していました。
そしてこれが史上初めて、「視覚障碍者が人間のガイドに頼ることなく、ランニングを成功させた事例」となったのです。その後、クリンガーのような人間とともに走るための特別なトレーニングを受けた盲導犬は「ランニングガイド」と呼ばれるようになります。
視覚障碍者がランニングガイドを持つことは、自立性、自主性、体の健康のためのフィットネスの可能性を向上させることに繋がると言われています。ランニングガイドのおかげで、視覚障碍者は、軽いランニングからマラソン完走を目指す長距離のトレーニングまで、より気軽に自分の好きなタイミングで走れるようになります。
トムもまたランニングガイドのガスを相棒として受け入れました。ガスがランニングガイドとして側にいてくれることで、トムは25年前に視力とともに失った自立を取り戻せたのです。2017年、彼らは5マイル(約8キロ)の距離を初めて一緒に走ります。その後トムは、ガス、ウェスティー、ワッフルという3匹のランニングガイドと一緒に、ハーフマラソンを完走します。そしてこの出来事は史上初めて、「盲導犬と人が大会でマラソン競技を完走した事例」と世に知られることになります。
パメラ・マクゴニグルという女性も、このプログラムによって新しい可能性に出会いました。パメラは、視覚障害を持って生まれ、小学校6年生の時に「走る」ことに出会います。走ることに魅了された彼女は、努力の末、1992年のバルセロナ・パラリンピックの3000メートル競技で金メダルを獲得しました。しかしそんな彼女でも、トレーニングを一緒に行なってくれる人間のガイドがなかなか見つからず、思うように練習ができない日々が続いたことから、一度は競技を離れてしまっていました。
そしてパメラが走ることをやめてから12年後、彼女はランニングガイドプログラムを知り、トレーニングを開始します。彼女はトレーニングの中で、のちのランニングガイドとなるマイダとの出会いを「自分と同じように走ることを愛する存在に初めて出会えた気がした」と語っています。
トムがCEOを務めるNPO団体Guiding Eyes for the Blindは、ランニングガイドプログラムを初めとして盲導犬の育成や盲導犬を必要とする人々と盲導犬とのマッチング、マッチング後のサポートなど、視覚障碍者と盲導犬に対する支援を行なっています。また、ランニングガイドプログラムからは、毎年160以上のチームが卒業しています。そしてこれらのサービスは盲導犬やランニングガイドを必要とする全ての人とその家族に無償で提供されています。
彼らが行なっている活動は、人間と犬との間に新しいパートナシップの在り方を提案するものです。このランニングガイドプログラムを通して、視覚障碍者と盲導犬達は「自立し、走る」ということを実現していきます。そしてこの事実は、これからの視覚障碍者の人生の在り方を大きく変えていくことでしょう。私達Ruffwearは、そんな彼らの新たな旅に貢献できることを誇りに感じています。